【動画公開】委託先による横断分析・名寄せ・個人データ突合分析はどこまで認められるのか|統計作成等目的に限定したAI統計特例と個人情報保護法2026年改正

サマリー

本記事のポイント

  • 従来は難しかった複数事業者データの個人突合分析について個人情報保護法2026年改正で導入されるAI統計特例の観点から整理する
  • なぜ従来規制されていたのかという制度趣旨を確認する
  • 統計作成等目的が重視される理由を解説する
  • 実務上想定される活用例と留意点を整理する

AI統計特例については、Part1(基礎的な考え方)、Part2(報道よりも簡単ではないと思われる)、Part3(氏名住所付き病歴とハッシュ)、Part4(公開された要配慮個人情報の取得)をすでに公開済のため、合わせて参照されたい。

担当者がまず確認すべき事項

  • 自社の分析目的は統計作成等目的に該当するのか
  • 個人に対する働きかけや評価が目的になっていないか
  • 委託データを利用している場合、どのような法的整理になるか
  • データ提供者と受領者の間でどのような合意が必要か
  • 公表等の透明性確保はどのように行うか

動画解説

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タイムライン

  • 00:00 なぜ「データを横断分析したい」のか
  • 01:20 個人突合で可能になる分析例
  • 03:57 委託先によるデータ突合が難しかった理由
  • 06:42 データ突合が難しい個人情報保護委員会Q&Aの考え方
  • 07:26 名前を削除しても解決しない理由
  • 08:54 従来認められていた統計分析の範囲
  • 10:31 2026年改正「AI統計特例」、なぜ統計作成等目的なら認められるのか
  • 15:37 「AI統計特例」公表・契約・再提供制限などの要件
  • 16:36 本改正の評価と課題

はじめに

個人情報保護法2026年改正では、「AI統計特例」が大きな注目を集めている。

報道ではAI学習との関係ばかりが取り上げられる傾向がある。しかし実務上は、統計分析のためのデータ活用という観点も極めて重要である。

本動画では、航空券予約サイトとホテル予約サイトの事例を用いながら、従来なぜ複数事業者データの個人突合分析が難しかったのか、そしてAI統計特例によって何が変わると見込まれているのかについて解説する。

AI統計特例を理解するための具体例

結論

企業には複数の事業者が保有するデータを横断的に分析したいというニーズが存在する。しかし従来の個人情報保護法の下では、その実現は容易ではなかった。

航空券予約サイトとホテル予約サイトの例

例えば、A社が航空券予約サイトを運営しているとする。

また、B社がホテル予約サイトを運営しているとする。

両者の利用者データを横断的に分析できると、次のような分析が可能になるかもしれない。

  • 航空券予約後、何日後にホテル予約を行うのか
  • 沖縄旅行を予約した利用者はホテル代をいくら支払うのか
  • クラスJ利用者は高級ホテルを利用する傾向があるのか
  • 航空券予約からホテル予約までの日数はどの程度か
  • 航空券種別ごとのホテルキャンセル率はどうなっているか

こうした分析は、個別サービス内だけではなく複数サービスを横断して分析することで初めて見えてくる。

個人突合分析とは何か

個人突合分析とは

個人突合分析とは、複数のデータセットに存在する同一人物を識別し、個人単位でデータを結び付けて分析することである。

例えば、

  • サイトA:難波舞氏が1月5日にクラスJを予約した
  • サイトB:難波舞氏が1月31日に高級ホテルを予約した

という情報を結び付けて分析することを指す。

単なる統計情報ではなく、「同一人物がどのような行動を取ったか」に着目する点が特徴である。

従来でも可能だった統計分析

結論

個人突合を伴わない統計分析であれば、従来でも実施可能であった。

できる分析とできない分析

例えば航空券予約サイト単独であれば、

  • 搭乗日の何日前に予約されるか
  • クラスJの利用割合はどの程度か
  • キャンセル率はどの程度か

といった分析は可能である。

ホテル予約サイト単独であれば、

  • 何日前に予約されるか
  • 高級ホテルの利用割合
  • 宿泊料金帯ごとの割合

などを分析できる。

しかし、

  • クラスJ利用者は高級ホテルを利用しやすいのか
  • 航空券予約後にホテル予約するまでの日数はどの程度か

といった分析を行うには、同一人物をまたいで分析しなければならない。

ここが従来の難しいポイントであった。

委託データの個人突合分析が難しかった理由

結論

複数の委託元から受け取った個人データを、委託先が個人単位で突合することは認められていないと解されてきた。

受託事業者の立場

例えば、X社が航空券予約サイトとホテル予約サイトの両方の運営を受託しているとする。

X社には、

  • A社の予約データ
  • B社の予約データ

が集まってくる。

しかし、X社が保有しているからといって、それらを自由に混ぜて分析できるわけではない。

なぜなら、X社は自ら取得したデータではなく、委託を受けて預かっているデータだからである。

従来の考え方では、このような委託データを個人単位で突合して分析することは困難とされてきた。

データ分析事業者のニーズ

一方で、そのような分析ニーズは現実には存在する。

例えばECサイト運営会社であれば、

  • どの時間帯にクーポンを配信すると売れやすいか
  • どの時期の商品が売れやすいか
  • どの施策が売上向上につながるか

といった知見を持つことが多い。

しかし、単に

「経験上そうです」

と説明するだけでは顧客企業は納得しにくい。

10万件の分析結果や統計グラフとして示せれば説得力が大きく向上する。

そのため、分析事業者には複数案件から得られる知見をデータとして分析したいという需要が存在している。

氏名を削除すればよいわけではない

結論

氏名を削除しただけで問題が解決するわけではない。

よくある誤解

「名前さえ消せば問題ないのではないか」

という疑問を持つ担当者は少なくない。

しかし、問題はは単純ではない。

A社やB社から見れば、氏名を削除していても、それは依然として個人データである可能性が極めて高い(→提供元基準説解説参照)。

委託という根拠で受領した情報である以上、

「名前がないから自由に突合分析してよい」

という整理にはなりにくい。

この点については難しい複雑な論点ではあるが、名前を消せば単純に解決する問題ではないだろう。

個人情報保護委員会Q&Aの整理

結論

従来は、個人突合を伴わない統計分析であれば一定範囲で認められていた。

個人突合しない統計分析

従来の整理では、

  • A社データ
  • B社データ

を用いて統計分析を行うこと自体が全面的に禁止されていたわけではない。

問題になるのは個人突合である。

個人突合を行わず、

  • データ量を増やすために利用する
  • 全体傾向を分析する

のであれば許容される場面があると整理されていた。

つまり、

「難波舞氏がどう行動したか」

は分析できない。

しかし、

「航空券予約全体としてどういう傾向があるか」

「ホテル予約全体としてどういう傾向があるか」

を分析することは可能であった。

 「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」 に関するQ&A

 https://www.ppc.go.jp/personalinfo/faq/APPI_QA/#q7-43

Q7-43

A社及びB社から統計情報の作成の委託を受ける場合に、以下の取扱いをすることはできますか。

A7-43

①個人データの取扱いの委託(法第27条第5項第1号)において、複数の委託を受ける委託先は、各委託元から委託に伴って提供を受けた個人データを本人ごとに突合することはできません。したがって、A社から委託に伴って提供を受けた個人データとB社から委託に伴って提供を受けた個人データを本人ごとに突合することはできず、突合して得られた個人データから統計情報を作成することもできません。

外部事業者に対する委託と整理した上で、委託先である当該外部事業者において提供を受けた個人データを本人ごとに突合して統計情報を作成する場合には、A社及びB社においてそれぞれに対する第三者提供に関する本人の同意を取得する等の対応を行う必要があります。

②A社から委託に伴って提供を受けた個人データとB社から委託に伴って提供を受けた個人データを本人ごとに突合していないため、委託先においてA社から委託に伴って提供を受けた個人データとB社から委託に伴って提供を受けた個人データをサンプルとなるデータ数を増やす目的で合わせて1つの統計情報を作成することができます。

個人情報保護法2026年改正とAI統計特例

結論

AI統計特例により、複数事業者データの個人突合を伴う統計分析が可能になることが見込まれている。

改正前後の整理

論点改正前の考え方改正後(AI統計特例)
複数事業者データの個人突合分析困難と考えられていた統計作成等目的であれば一定条件の下で可能になると見込まれる。
統計利用のためのデータ活用個人突合を伴わない統計分析が中心個人突合を経由した統計分析も対象になり得る
データ利用の透明性限定的公表等による透明性確保が図られる
データ提供者と利用者の関係脱法委託も合意等が必要
再提供・目的外利用個別のルールで規律厳しく制限
本人の権利利益保護個人突合を抑制する方向統計作成等目的に限定することで権利利益保護を図る

どのような分析が可能だったのか(整理表)

ケース従来の考え方
A社の航空券予約情報だけ分析する可能
B社のホテル予約情報だけ分析する可能
A社とB社の統計情報を比較する可能
A社とB社の生データを使い全体統計を作成する一定範囲で可能
同一人物を識別しながら分析する困難
同一人物の行動履歴を横断的に分析する困難

AI統計特例の本質

AI統計特例の本質はAI学習そのものではなく、「統計作成等目的」にある。

AI統計特例については、

  • 氏名付き病歴のAI学習
  • 要配慮個人情報の利用

といった議論が注目されがちである。

しかし、統計分析のためのデータ利活用も重要な対象である。

なぜ統計作成等目的なら認められるのか

結論

最終的な利用目的が個人への働きかけではなく統計的把握だからである。

統計と個人利用は何が違うのか

例えば、

難波舞氏がクラスJとハイクラスホテルCを利用していることが分かったとして、

難波舞氏だけを狙って広告配信したり、クーポン配信したりするのであれば話は別である。

これは個人に対する働きかけになる。

一方で、

  • クラスJ利用者はハイクラスホテル利用率が高い
  • 沖縄旅行利用者の予算感はこの程度

といった全体傾向を把握することは、個人を対象にした利用とは異なる。

統計情報と個人情報は正反対の概念であると従前から考えられている。

制度趣旨

統計分析では途中で個人データを用いることがある。

しかし最終アウトプットは個人に関するものではなく、全体傾向である。

そのため、

  • 個人を評価する
  • 個人へ働きかける
  • 個人をターゲティングする

場合に比べて、本人の権利利益への影響が小さいと考えられている。

この点が統計作成等目的を認める背景である。

AI統計特例の主な条件

結論

統計作成等目的であれば何でも認められるわけではない。

主な条件

  • 統計作成等目的に限定される
  • 公表が求められる
  • データ提供者と受領者の合意が必要となる
  • 再提供が制限される
  • 目的外利用が制限される

さらに今後の委員会規則やガイドラインによって条件が追加される可能性がある。

実務上のポイント

  • 統計作成等目的が本当に維持されているか確認する(課徴金の対象でもある。継続的に確認が必要である)
  • 公表内容を確認する
  • 合意内容を確認する
  • 目的外利用や再提供防止措置を確認する
  • 脱法AI統計特例に気を付ける

本改正をどのように評価すべきか

結論

統計作成等目的に限定した突合統計分析は、評価できる改正であると考える。

評価する理由

最終的な利用目的が統計分析である以上、個人の権利利益侵害のおそれは小さい。

その一方で、従来は複数事業者データを個人単位で分析することが難しく、実務上のニーズとの間にギャップがあった。

そこで、

  • 公表による透明性確保
  • ガバナンスの強化
  • 制裁の強化(課徴金等)

を前提として利用を認める方向性は合理的であると評価している。

残る課題

もっとも、外部から見れば、

「本当に統計作成等目的なのか」

を確認することは容易ではない。

事業者が統計作成等目的と説明しながら、実際には別目的で利用している可能性を第三者が判断することは難しい。

そのため、

  • 公表によるチェック
  • 違反時の法的責任

が重要になると考えられる。

今後は、第三者の目で統計作成等目的であることを検証する仕組みなども重要になってこよう。

動画解説

本記事の動画↓

AI Part1↓AI統計特例の基本的な解説

AI Part2 AI開発が簡単になるわけではないかも?!要注意点↓

AI Part3↓ 氏名住所付き病歴が取得されるのか。ハッシュ等

AI Part4↓ 公開された要配慮個人情報の取得(スクレイピングやSNS分析等)

Q&A

Q1. AI統計特例はAI学習だけの制度なのか

AI学習だけではなく、統計作成等目的のデータ活用も重要な対象である。

Q2. 複数事業者のデータを個人単位で分析できるようになるのか

一定条件の下で可能になることが見込まれている。

Q3. 氏名を削除してIDだけにすれば従来でも分析できたのですか。

氏名を削除しても、委託によって取得したデータであることに変わりはなく、「名前を消したから自由に分析できる」という単純な問題ではない。

Q4. AI統計特例ではどのような条件が付されるのか

公表、合意、再提供制限、目的外利用制限など。

Q5. 本改正は実務上評価できる改正なのか

統計利用のニーズと本人保護のバランスを図る改正として評価している。

Q6. この改正で最も大きな変化は何か

複数事業者が保有するデータについて、個人突合を伴う統計分析が可能になると見込まれている点である。

従来は、同一人物を識別しながら横断分析することは難しいと考えられていた。

Q7. なぜ統計利用なら認められるのか

最終的なアウトプットが個人に関するものではなく、全体傾向の把握だからである。

個人を対象とする評価や働きかけに比べると、本人の権利利益に与える影響が小さいと考えられているためである。

Q8. データ分析事業者にとってどのような意味がありますか。

分析事業者は複数案件から得た知見をデータとして可視化したいニーズなどがあると聞いている。

AI統計特例は、そのような分析ニーズに応える改正として評価できる可能性がある。

Q9. 今後も確認すべき事項はありますか。

ある。

委員会規則やガイドラインによって今後追加的な条件が示される可能性がある。

実務担当者は法律だけでなく、今後のガイドラインも確認する必要がある。

Q10. 本改正の最大の課題は何ですか。

「本当に統計作成等目的に限定されているかを第三者が確認しにくい点」が課題である。

そのため、公表による透明性確保やガバナンスの実効性が重要になると考えられる。

まとめ

個人情報保護法2026年改正のAI統計特例は、AI学習だけではなく、統計分析のためのデータ利活用という重要な側面を持つ。

従来は、複数事業者データを個人単位で突合して分析することは難しいと考えられてきた。しかし、統計作成等目的という限定の下で、そのような分析が認められる方向性が見込まれる。

もっとも、統計作成等目的であれば何でもできるわけではない。公表、合意、再提供制限、目的外利用制限などの条件があり、今後下位規範等で条件が新たに付される可能性も高い。

今後公表されるガイドラインや委員会規則も含めて、具体的要件を丁寧に確認していく必要がある。

なお、「AI統計特例だから大丈夫」といった脱法AI統計特例にひっかかって違法に個人情報を提供してしまわないよう警戒する必要があり、そのためにも具体的要件を慎重に検討し理解していく必要がある。

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執筆者プロフィール

弁護士 水町雅子(第二東京弁護士会、宮内・水町IT法律事務所所属)

現在、法人様向けのご相談のみお受けしております。
個人の方からのご相談には対応しておりませんので、ご了承ください。

SE(ITシステム開発)、コンサルティング等をシンクタンクにて行った後、弁護士登録。内閣官房・特定個人情報保護委員会にてマイナンバーの制度設計、ガイドライン作成、PIA制度化等を行う。
個人情報・ITに関して、首相官邸パーソナルデータに関する検討会参考人、内閣府「マイナンバーの利活用拡大のための検討タスクフォース」委員、こども家庭庁「こどもデータ連携の取組に関する検討会」委員、厚生労働省ITシステム等技術審査委員、東京都東京デジタルサービス会議構成員、東京都足立区情報公開・個人情報保護審議会委員、つくば市プライバシー影響評価制度検討懇話会委員、総務省・経産省・AMED実証事業等の支援等、実績豊富。
マイナンバー、個人情報、AI、医療情報、IT法務、企業法務、行政法務等に対応。書籍・論文執筆・講演のほか、日本経済新聞、朝日新聞、読売新聞、雑誌、TV等メディアコメント多数。

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